戮力協心 ~地域のために心を一つに~

理事長所信

本間 税

【はじめに】

まちのありたき姿を語ろう。
十人十色の強さを持つ私たちだからこそできる運動が必ずそこにある。
私たちがあるべき姿を語ろう。
人を想い、地域を想い、本気で今を変えられると思ったものだけがまちに変革をおこせるのだから。

2019年に日本青年会議所159回総会において、全会一致でSDGs推進宣言が採択され、今ではいたるところでそのアイコンを目にすることが多くなった。SDGsは今までの成長戦略に限界がきていると認識された結果、これまでの「モノ」の価値観ではなく、全世界において調和やより良い社会をつくる方向へと変わろうとする道しるべとして推進されている。こうした流れの中で「モノ」から「心の豊かさ」へと価値観が変わり、客観的で物質的な豊かさを測定するGDPでは捉えきれない、国民一人ひとりが心理的に体感できる幸せを意味するWELL-BEINGが注目されるようになった。
昨年の世界経済フォーラムが発表した「観光魅力度ランキング」で、日本は1位を獲得したが、同年に国連が発表した「世界幸福度ランキング」を見ると、日本は世界56位であり、先進国の中で最下位という結果であった。この現状に既視感を覚える人も多いだろう。私たちが住み暮らす函館もまた数年前に同じような状況をニュースに取沙汰されたことを思い出した。GDW(国民総充実度)はまだ公的な指標も存在しないことから、幸福感を選び合う時代とされるこれからを画一的な幸せの価値観で測ることはできないが、守り、育てるべきは、私たちの暮らしであり幸せだ。私たちがJC運動として行っている経済・政治・文化・環境・防災・育成・交流など、それらの事業は本来そのためにある。そして、社会により良い変化を与えられる運動を能動的に推進するためにも、メンバーにとってのWELL-BEINGを高めなければならない。
多様性を備えた私たちが時代とともに変わりゆく地域の課題を的確に捉え、希望をもたらす変革の起点として、このまちに住み暮らす人々が将来も住み続けたいと思えるような持続可能な地域を創り上げよう。

【パートナーシップを意識する】

世の中にある無数の社会課題は、簡単に解決できるものから一筋縄では解決することができない複雑なものまで多岐に渡るが、1つの組織で成し得ることには限界があり、解決できる社会課題は限られている。行政や企業、地域住民など様々な人々がそれぞれの強みを活かし合い、周囲を巻き込んで事業規模の拡大を目指し、運動の最大化を図る必要がある。社会に必要とされる運動には必ず共感者がおり、他に認められ初めて価値が生まれる。独りよがりではない広い視野をもって運動を展開しよう。

【広報の再設計を図る】

どんなに素晴らしい事業を構築しても参加者が少なければ意味がない。現代の多様化する情報社会における受け手の情報量の多さを考えると、専門知識を持たない私たちにとって広報活動の効果が満足に得られることが多くないのは当たり前だとも言える。全ての人に届く言葉なんて存在しない。だからこそ対内外において広く報じるのではなく、届くべき人に届ける広報として戦略性を持ったKPIの設定の刷新が必要だ。また、現代において情報発信は私たちの社業においても勉めるべき分野の一つであることから、各会議において一人ひとりがその視点をもったメンバーからの提案を期待したい。

【運動の最大化を目指す運営基盤の構築】

JCは社会が抱える課題を解決するための根本療法となる運動を展開することが大きな役目とされ、その運動を行うための根源は会議に他ならない。会議は事業実施に至るまでの過程でしかないが、会議に限らず過程をないがしろにしてはJCである意味は毛頭ない。
JCの活動は運動と運営の両輪で成り立っており、目に見えずとも運営に求めるものは大きい。会議の場において語らうべきは体裁を整えることや対立ではなく、打ち砕くべき社会課題であるべきだ。時代の変化に伴った変革を厭わない勇気を持ち、調和のとれた意思決定と合意形成による運動の最大化を図るための有意義な場を創出しよう。また、規律ある運営によるJAYCEEとしての誇りの醸成と品格のある青年としての組織づくりを全うし、メンバー同士のつながりから生まれる相乗効果を意識した組織基盤を構築していきたい。

【まちの理想像を描く】

市民が政治について考える機会はそう多くない。選挙とは有権者の意見を社会や政策に反映させるための制度であるが、近年の選挙では、常に投票率の低さが問題となっており、生活と政治が離れ有権者が政治に参加していないことを示している。その原因の一つに、単に政治に触れる機会が圧倒的に少ないことがあげられる。
若者の投票率低下や若者の政治離れは政治的影響力が強く、経済的弱者と見なされがちな高齢世代に向けた政策が優遇されるシルバーファースト主義に陥る可能性が高まる。公共施設の維持や教育、少子化対策をはじめとする未来への投資の優先順位が相対的に下がり、若者目線での社会の改善が期待できなくなるため、多様性が失われ民主主義の基盤が揺らぐことになる。価値観が個人生活志向によっている現代では、若者に限らず社会全体が政治的無関心に陥りやすい。民主主義の根幹は人民による、人民のための政治だ。一人ひとりが主権者であることを自覚し、政治を自分事として見つめなければこの地域に明るい未来はない。また、市民が自らの本分を理解し、行動に移していくためにはこのまちの理想像を描く必要がある。未来のあるべき姿から未来を起点に解決策を見出したい。私たちの行動は周りの状況からではなく、私たち自身の選択によって決まる。目指す未来があれば一歩踏み出すことができるはずだ。まちは固有の歴史と現在の使い手に支えられてまち並みを形成しており、類似の歴史性や文化、自然現象をもつ他都市との団結から快適で魅力あるまちづくりを推進したい。

【理念の共有から成る人財育成】

ここ数年はコロナ禍もあり思うように対外向けの事業が行えず、人との関わりが希薄になると目の前で喜んでくれる人の顔が見えない辛さを味わった。実体験を通して成果が見えないと、まちに対しての貢献と私たち自身のやりがいを実感しづらい苦さも味わった。JCはいったい何のためにあるのか。価値観や好み、働き方、ライフスタイルまでが多様化する社会の中で、JCの存在価値を改めて認識する必要がある。
会員数の減少と入会年数の浅いメンバーに加え、コロナ禍での運動不足により、社会課題の解決といったJC運動が本来為すべきことや理念が失われつつある昨今、立ち返るべき原理をメンバー一人ひとりが改めて認識しなければならない。
JCに入会したからといって必ず何かが身につくということではなく、活動して初めて学びや気づきを得られ、さらには目的意識をはっきり持つことが何事においても成長のカギとなる。また、無駄に思える時間にこそ発展と成長の機会が与えられ、すべては自分の心持ち次第だと気づかされることも多い。
個々のメンバーによる飽くなき自己研鑽による資質向上だけではなく、理念の共有により同じベクトルを向いた能動的なJC活動を推進していきたい。また、人は人でしか磨かれないという言葉があるように、メンバー同士が互いに切磋琢磨しあう良好な人間関係は組織基盤を強めるとともに、共に過ごす時間から生まれる一体感が運動力を高めるための強固な信頼関係につながると確信している。

【次代につなげる矜持】

単年度制のJCにおいて継続事業は労力や資金などの資源を減らし、その年の新しいチャレンジの可能性を狭めるものとして悪く言われることもあるが、それは費用対効果に見合わないことが発端となる場合が多い。継続事業が地域に必要とされる発展を遂げている場合、それはLOMやメンバーの誇りであり、JCを知ってもらう一つの広報媒体として確立され、会員拡大にもつながる何物にも代えがたい先輩方からの贈り物だ。地域とLOMにとって相互利益が得られる継続事業のあり方と可能性を見つめなおし、地域に根差したJCI函館の代名詞と呼ばれるような事業の礎を築きたい。また、入会して間もないメンバーにおいて対外事業への参画はこれからの活動意欲の原動力となり得る。それは先に述べたように、実体験を通してまちに対しての貢献とやりがいを最前線で感じることができるからだ。入会動機が自己のためであっても能動的に社会に貢献できる精神が育まれる。そんな発展と成長の機会に溢れた場を提供していきたい。
事業を通してこの地域に対して貢献できることをしっかり示そう。成功体験の積み重ねが私たちに誇りと勇気を取り戻してくれる。

【健全な危機感をもちダイバーシティを推進しよう】

SDGsというグローバルゴールは、世界的な視点を私たちにもたらした。その結果、⼈材においても持続可能な社会を築くための投資が施され、地域においても若い世代から未来を創るリーダーの登場が求められている。対外事業によって市民の意識を変え、社会により良い影響を与えた時、その中の市民が私たちの同志になってくれれば地域への波及効果は計り知れないものになる。また、知識や経験など、様々な能力を持つ人たちが同じ組織に集えば、それだけ幅広い価値を生み出すことができ、それぞれの異なる能力を掛け合わせることが持続可能性を高めることにつながるはずだ。多様性はイノベーションの源泉であり、多様な視点が組織にもたらす価値と成長を考えると会員拡大においてもその観点が必須である。多様な人材を活かす戦略であるダイバーシティという考えにおいて、JCほどふさわしい組織はないはずだ。
いまだかつてないほどの会員数の減少に健全な危機感を持ち、ありとあらゆる手段をもってアイディアと多様性を求め、全メンバーが一丸となった会員拡大を目指したい。

【結びに】

私たちは誰だって完璧ではない。 だからこそ多様性を求め、アイデンティティを維持しながら相互に尊重する。時には補い合い、価値観の交流から自己の成長を促す。突出した一人の100歩に頼るより、多種多様な100人の一歩がはるかに組織を強くし、地域に対する運動力を発揮するはずだ。
地域をよりよい社会に変えるのは簡単ではない。簡単ではないからこそ、仲間と議論し、この地域が1mmでもよくなる方向に進むならば何事にもチャレンジする志を持ち続けたい。周囲の支えを得ながら成功体験を積み重ね、私たちはどうありたいのか、どんなまちでありたいのか。見せ方でもやり方でもなく、未来につながるあり方にこだわろう。胸を張って未来を託せる。そんな夢を描いていこう。